俺はクイクイッと両手を招いてみせる。

「男のくせにまわりくどいわねっ!私今友ちゃんなんかの相手してる場合じゃないのよっ!そんな事よりアニキよ!あーーもう、なんで今日に限って帰って来ないのぉおーー!!」

澪ちゃんはダンダンと地団駄を踏んだ。……怖い。

「だからさーー、今日は何の日か知ってるでしょ?俺に何か渡すもの忘れてない?」
「……友ちゃん」

澪ちゃんの声のトーンが1オクターブは下がった。

「……男のくせにまどろっこしい!用件は!簡潔!かつ!正確に……!!」
「ひぇええええっ……!!」

さすが潤一の妹、奴と全く同じセリフを言いやがる……!
けどなんでだ…潤一より澪ちゃんの方が怖いのは……おばちゃんの血か。潤一が最近ガラ悪くなったのは澪ちゃんの悪影響じゃないのか。

「あの、今日はバレンタインデーなので、チョコレートが欲しいですっ……!」

俺はビクつきながら、勇気を振り絞って澪ちゃんの様子を伺った。

「ハァー……」

なんかすごい深いため息ついてる。何その歴戦の古豪みたいな風格。女の子って、女の子って本来もっと可愛いものじゃないの?ねぇ、澪ちゃん。ちっちゃい頃の君はほんとに可愛いかったよ……?ねぇ、あの頃の君は一体どこへ行ってしまったの……?

俺は軽く走馬燈のように幼い頃のシーンを思い浮かべそうになったが、澪ちゃんのドスの聞いた声で現実に引き戻された。

「男なら、それぐらいの用件一言で済ませられんのかゴルァアアア!!」
「ヒィーッ、ごめんなさぁあいい!!」

ねぇ、なんで?なんでチョコレートが欲しいって言っただけで俺こんな怒られてんの……?ていうか澪ちゃんほんとに君いくつ……?潤一の妹だと思ってたけどそれって気のせい……?もしかして君、おばちゃんの妹だったんじゃない……?

俺が澪ちゃんの拳骨を辛うじて交わし、互いに発止と構えを取った所で俺の背中のドアが勢い良く空き、俺の後頭部を強打した。

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