まったく潤一の奴は余裕ってもんが足りない。
俺は首に巻いていたマフラーを取ると、潤一の首にかけ、ぐるぐる巻きにしてやった。

「…なんだこれは。」
「だから忘れ物。」
「…意味が分からん。」
「だから、俺の忘れ物だよ。俺が、俺のマフラーを、潤一の家に忘れるの。」

「…忘れた、じゃなくて忘れる、のか。なんで過去形じゃなく現在進行形なんだ。」
「また難しいこと言う。」
「お前の方が難しいわっ!」

「だーからー、潤一は本当にバカだな。」
「バカにバカと言われる筋合いはない。」

俺はため息をついた。

「…だからね?本来こういうことってヤボなんだけど、潤一君はバカだから説明してあげるよ?」
「…色々言いたいことはあるがとにかく聞こう。早く言え。」
「俺がこれをこうやって忘れるでしょ?」
「……」
「でも潤一君は不親切だからきっと俺の家に届けてくれるとかそういう事は考えないよね」
「……」
「だからさぁ、また明日取りに来る、って言うこと。」
「……」
「潤一には俺がいないとダメなんだって思い出すまで、通い詰めっからな!」
「……」
「覚悟しとけよ、じゃーなっ!」

俺はニッと笑って今度こそ本当に家に帰った。
あの潤一を黙らせてやってイー気持ちだ。
俺の方が喧嘩の経験は上なんだからな。
潤一なんかにぜってー負けやしないよ。

「友治の、アーホーーーーーーー!!」

塀の向こうから、潤一の遠吠えが聞こえた。

―おわり―

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